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  • 執筆者の写真Shimizu Yoshiko

マクロコスモスとの出会い

私が最初にマクロコスモスと出会った時のことを、私のCDのブックレットにエッセーとして載せました。それをここにご紹介します。


「思い出の日」清水美子

ある日、大学生だった私は、東京にあるアメリカンセンタ ーへ立ち寄った。当時はちょうど海外留学を考えはじめて いた時期で、アメリカの音楽学校について情報収集をす るのが目的だった。同センターに入るなり、ロビーの近く に文化紹介のコーナーがあるのに気づいた。近づいてみ ると、その一画だけ図書館のようになっていて、アメリカ人 作曲家の作品を収録したカセットテープが机の引き出し の中にぎっしりと並べられていた。カセットに書かれた作 曲家名や作品名にはわかるものもあったが、ジョン・ケー ジの隣にあった「マクロコスモスI」というタイトルには見覚 えがなかった。気になった私は、そのカセットテープを取り 出し、そばにあった試聴用プレイヤーに挿し込んで、ヘッド フォンを耳にあてて聴いてみることにした。

テープは日本語のナレーションから始まった。「マクロコス モスIは、アメリカを代表する作曲家ジョージ・クラムの作 品です。作曲者はこの曲をアメリカにおける現代音楽演奏 の第一人者であるピアニストのデイヴィッド・バージに捧 げました。このテープは、まさにそのバージ氏の演奏を収 録したものです......」

そして、音楽が始まった。

前打音を含む和音が7つ、低音部でゆっくり静かに上行 する。そして静かに弦をグリッサンドする音。再び7つの上 行する和音。なんとミステリアスで魅力的なはじまりだろ う。そう思った次の瞬間だった。ジャーン、という衝撃的な 音が私を襲った! これは、何!? 何を使った音!? 圧倒的な響きだった。その音は大きなうねりに発展し、み るみる私の体を別世界へ、暗い神秘の奈落へと引きずり 込んでいった。 そのあと各曲が演奏されていくにつれ、さらなるイメージ が浮かび上がっていった。地球の起源、暗黒、神、星々、静 けさ、いとおしさ。まるで、宇宙の映画を観ているかのよう だった。全12曲を聞き終えた時、私の鼓動は高鳴り、し ばらくその場を離れることが出来なかった。

こうしてクラムの音楽にすっかり魅了された私は、ついに アメリカ・ニューヨーク州にあるイーストマン音楽学校の デイヴィッド・バージ氏の元へと留学する事になる。バー ジ氏はクラムの音楽の信頼のおける演奏者であるだけで なく、クラムの最も親しい友人でもあるのだ。バージ氏か ら大きな影響を受けた私は、クラムの世界に足を踏み入 れる事になった。

マクロコスモスに出会って、いったいどれくらいの年月が 過ぎたことだろう。でも、あの日の事は昨日の事のように 憶えている。私の運命を変えた、あの不思議な力を持つ音 色は、今でも私の心を捉えて離さない。


https://www.kairos-music.com/sites/default/files/downloads/0015029KAI_crumb_webbooklet.pdfhttps://www.kairos-music.com/cds/0015029kai




https://www.kairos-music.com/cds/0015029kai




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